キャリアコンサルタントと産業カウンセラーの違い

キャリアコンサルタントと産業カウンセラー。企業内の相談業務的なイメージで似た資格だと考えている方も多いでしょう。

両方の講座を受講したうえでのそれぞれの違いをご説明したいと思います。

就職や転職で役立ちそうなのはどっち?

キャリアコンサルタントは、20164月からは国家資格として認定されています。他方、産業カウンセラーは1992年から2001年までは国家資格の技能士として認定されていましたが、現在は民間資格となっています。

産業カウンセラーの資格取得者が、実際にカンセリングに関する業務に従事している割合は15%という協会の調査結果があるように、実際にカウンセリングを専業にするための資格としては若干弱いのかもしれません。主業務は異なるものの、傾聴などのスキルをコミュニケーションの場面で活用しているというのが現状のようです。

対してキャリアコンサルタントは、2010年の調査結果では、資格取得後に、「この分野で活動を開始することができた、又は活動 の見通しができた」人は36.5%、「資格取得前はキャリア・コンサルティングに関連する活動をしていなかったが、 資格取得後はしている(していた)」(31.4%)と、約30%強の人が関連業務に携わっていることがわかります。活動の場としては、「公的就職支援機関(ハローワーク、ジョブカフェなど)」 が 25.9%と最も多く、次いで「企業内(人事・労務・キャリア形成支援部門など)」(21.3%)、 「大学・短期大学・高等専門学校(キャリアセンターなど)」(15.9%)、「民間就職支援機 関(人材派遣会社、人材紹介会社、再就職支援機関など)」(15.4%)で、雇用形態は、「非正規社員、非正規の職員(契約、嘱託、パートタイマー 等)として組織内で活動」が最も多いようです。

参照;キャリア・コンサルティングに関する実態調査結果 報告書

実際に資格を生かして転職などを考える場合は、「キャリアコンサルタント」の方が有利かもしれませんね。人事関連や管理職に従事している方にとっては、組織構築や部下との面談やキャリア育成、採用などの場面で、どちらも即戦力になるスキルです。

相談内容

産業カウンセラーはの役割は「心理学的手法を用いて、働く人たちが抱える問題を、自らの力で解決できるように援助すること心理学的手法を用いて、働く人たちが抱える問題を、自らの力で解決できるように援助すること」と定義されています。主に働く人とその家族の心の問題が中心になります。カウセリング業務だけでなく、職場環境の問題に対しては提言していくことも役割のひとつです。

キャリアコンサルタントの役割は「「キャリアコンサルティング」とは、労働者の職業の選択、職業生活設計又は職業能力の開発及び向上に関する相談に応じ、助言及び指導を行う」ことです。相談内容はより個人の「キャリア」に関する問題です。新卒者の就職や、転職や職場での役割の変化への対応、将来的なキャリアプランなど、仕事人生に関するより具体的な相談が中心になります。

クライアントとの関わり方

産業カウンセラーで最も重要なのは「自らの力で解決できるように援助すること」です。クライアントと信頼関係を築き、相手を受容し共感し、カウンセラー自身が自己一致した状態で行う「傾聴」が最も重要なアプローチになります。

カウンセリングが進んでいくと、クライアントの抱える問題に対して、クライアント自身がどう気づき、解決に向けて考えを深めていきます。傾聴によってそのサポートをするのが、産業カウンセラーです。

対するキャリアコンサルタントは、領域が特化されていることもあり、求められていることがかなり異なります。もちろんクライアントとの信頼関係を構築するための「傾聴」は大前提として重要ですが、さらにその先の「展開」が求められます。決断、行動するのはクライアントであるという点は産業カウンセラーと同じですが、サポートの進め方がかなり異なります。例えば情報提供。自己理解や職業理解を進めるために、適切な情報の探し方などを一緒に進めていきます。また、具体的な目標を据え、実現できたかを一緒に確認していくなど、より具体的かつ、クライアントとコンサルタントが相互にコミットしながら、相談プロセスが進んでいきます。

求められる知識

産業カウンセラーは心理学的手法が中心になるので、多様な心理学についての知識が役立ちます。最近ではアサーションやアドラーなど、話題になる心理学的手法ももちろん活用されます。また、各種心理テストといったアセスメントに関する知識も求められます。最近では、ストレスチェックが義務化されるなど、職場におけるストレス問題は産業カウンセラーが扱う問題としても大きなものになっています。安全配慮義務なども、企業で産業カウンセラーのスキルを活かす上では重要になっていくでしょう。

キャリアコンサルタントは、「クライアントの自己理解」促進の場面で、同様に心理学的知識が求められます。さらに「職業理解」を促進するための、様々な手段についても知識が求められます。さらに労働法に関する知識や、労働者に対する行政のサポート機能などについても熟知しておく必要があります。例えば、クライアント自身が職業に対しての訓練が必要となった際に、どんな機関が利用できるかなどが頭に入れておけば、クライアントに提案してみることができます。このように、キャリアコンサルタントでは、より具体的な知識が求められる場面が多い印象があります。

養成講座を受講して感じた違い

これから養成講座を受講する方に向けて、体験して感じた違いを記載しておきます。

産業カウンセラーは、とにかく相談範囲が多岐に渡ります。職場や家庭、町内会や友人関係など、働く人とその生活にはあらゆるトピックが含まれます。そして「傾聴」というクライアントの寄り添って受け止めることで、内省を促すのは、難しいものがありますが、実際にクライアントさん自身が自らを振り返り始める瞬間に立ち会うと、非常に感動します。「人は自ら成長しようとする意欲を持っている」ということが実感できる瞬間でもあります。

キャリアコンサルタントの相談内容は、「仕事」の具体的なトピックが多いです。ただ、具体的な内容の裏側にある、クライアント自身の課題や思いに対しても、傾聴によって寄り添っていく必要があります。大きく異なるのは、質問や提案、時には指示など、産業カウンセラーではそこまで積極的に利用しない技法を活用する場面が多々あります。クライアントの課題をより明確にするために必要な質問に限られますが、産業カウンセラーは「聴く」ことが中心だったため、講座では戸惑うことも多かったです。